レビューは井戸端会議のように

アカデミックな文献等のレビューをどのようにしているか、自分の感覚の棚卸のために描いてみる。

表題が早速突飛で申し訳ないのだが、自分は文献のレビューをしているとどうも、頭の中が「井戸端会議をしているおばちゃん」になっていく。

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↑こんな感じ。

なんでかというと、井戸端会議での態度が、レビューの要である「あるテーマに対する人間関係の把握」を行う態度と似ているのだ。(実際はもっと厳密なんだけど、大まかなイメージとしては似ていると言っていいと思う)

たとえば「近所の病院の評判」に対して、地元育ちの佐藤さんは「あそこの先生はベテラン揃いだからいいのよねえ」と話していたが、最近越してきた田中さんは「でも私、この間若い人に当たったんですけど、ぶっきらぼうで、ヤブな感じでしたよ」と話したところ、佐藤さんが「ええ、本当?そんなことないと思うんだけど」云々と返したとする。

まず、このやりとりを聞いて「ベテランもいるならいい病院なのかな」「ヤブもいるならあそこの病院には行かないでおこうかな」と考えるのはレビュー以前の態度、「話を鵜呑みにする」状態。

研究で言えば、論文や著作の中に書かれたレビューを読んで、「ふむそうか、そうなってるのか」とそのまんま受け取ってしまうような状態。

次に、佐藤さんも田中さんもあの病院について違う話をしている、ならば他の人はどうだろう?と考えて、違う“井戸端”でお医者の奥さんの鈴木さんやら元看護師の藤原さんの話も聞いてみると、「へえ、いろんな意見があるもんだなあ」と思ったとする。

で、「近所のあの病院は近頃どうなの」と聞いてみると、「えっとね、佐藤さんはこうこう言ってたけれど、田中さんはこれこれと言ってて。鈴木さんによれば今かくかくで、藤原さんに聞いてみたら昔しかじか」というような要領を得ない話が帰ってきたとする。

研究で言えばこの状態は、単に人の話を羅列して、テーマについての意見を採取しているだけ。東大の中原先生の比喩で言えば「先行研究羅列マン」の状態だ。

「井戸端会議のおばちゃんたち」はもっと高度である。

井戸端会議のおばちゃんたちは、会議をしながら、「近所の病院の評判」について話している人々の「人間関係」(誰はどんな立場にいて、誰と意見が対立しているか、誰の影響関係にあるか、ひいては権力関係があるか)を、協働的にざっと相関図的にまとめていくのである。

「佐藤さんは昔からあそこに世話んなってるから、愛着湧いてんのよきっと」「院長さんとも仲良いしねえ」「えっそうなの?」「知らなかったわ〜」「そりゃ無下に言えないよねえ」

研究で言えば、ある研究者はどこどこの学派の影響を強く受けているとか、師弟関係にあるかとか、他の研究者とはどのような関係にあるかを把握していくと、その研究者の論文(主張)の背景となるコンテクストがわかってくるので、

その研究者がそのテーマについて「言えること」(考えていること)と「言えないこと」(考えていないこと)の違いがはっきりわかってくるのだ。

そうしておばちゃんたちは、井戸端会議の中でその相関図を協働的に整理していくのであるが、その整理の中でテーマについての「誤解の種」やら「疑惑の種」が、その人なりの「立場」から生じていそうなこと(「まあ田中さんはまだ越してきたばかりだからねえ」)や、

「まだ誰も立っていない立場」(この場合は病院の中の人の意見や様子など)があることなどに、だんだんとみんなで気がついて来る。

だから噂好きのおばちゃんは、井戸端会議の最後に「(病院の)中では何が起きてんだろうねえ〜」「ねえ〜」と今後の調査の「軸」となる“アンテナ”を立てることを忘れない。

だから偶然、病院の中の人と繋がれそうな人と会った時には欠かさず、“世間話”という名のインタビューを開始するのである。「ねえ、最近どうなの?」

とまあ、批判的なレビューに必須な態度の一つとしての「人間関係の把握」「軸の探索」について、「井戸端会議のおばちゃん」というメタファーを通して語ってきたけれど、これは井戸端会議がすなわちアカデミックなレビューと同じだということではもちろんない。

井戸端会議になくて批判的なレビューに必要なもの、それは「視点の開示」。テーマについての人間関係を把握する自分の視点も考慮のうちに入れておく必要がある。自分の調査の軸や幅が偏っているなら、それを自覚して記述して開示しておくこと。

しかし、そういう自分の視点について開示のあるレビュー論文を読むと、「いやね、私も全部は知らないんだけど、私が聞いた限りではね…」というおばちゃんの前口上を聞いているような気持ちになるのは、これは俺の思考がおばちゃん的だからなのだろうか。

続く?